フォルクスワーゲンのクリーンディーゼル不正問題について

 
今日はこの話題です…

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1.暴かれたVWの不正

ドイツのフォルクスワーゲンが大変なことになっています。

9月18日、アメリカ環境保護局(EPA)がフォルクスワーゲンのディーゼル車で排ガス試験の時だけ排ガス量を減らす違法なソフトウエアが使われていたと発表しました。対象車両は、ジェッタ(2009年~2015年)、ビートル(2009年~2015年)、ゴルフ(2009年~2015年)、パサート(2014年~2015年)、アウディA3(2009年~2015年)の5車種。

アメリカ環境保護局(EPA)によると、不正対象車が実際に走行した時の窒素酸化物(NOx)の排出量は基準値の10~40倍にも達したそうで、フォルクスワーゲンに対象車、計48万2千台のリコールを命じました。

これを受け、フォルクスワーゲンのマルティン・ヴィンターコーン社長は20日、「社会と顧客に対して深く陳謝するとともに、法律に反することは容認しておらず、したがって緊急に、透明性を保ち、本件の事実の全てを第三者委員会の手によって明らかにする」との声明を発表しました。

フォルクスワーゲンによると、グループのディーゼルエンジン「EA189」を搭載した車両で、排ガスの試験の結果と実際の走行時の排ガス量のデータが異なるとのことで、試験時のデータを正しく示すようにソフトウエアの書き換えなど技術的な対応を開始したそうですけれども、このエンジンを搭載した車両は全世界で1100万台が販売されており、この対応のための損失によって、大幅な業績悪化が避けられないと見られています。

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今回の問題の事の経緯は2013年に遡ります。

2013年、欧州当局は、ワシントンとベルリン、サンフランシスコにオフィスを持つ非営利団体の国際クリーン交通委員会(ICCT:The International Council on Clean Transportation)に対し、欧州車の路上走行での排ガス検査を委託しました。

委託を受けたICCTは、ウェストバージニア大学の代替燃料・エンジン・排ガスセンターの研究者らを雇用し、フォルクスワーゲンの「パサート」と「ジェッタ」、そしてBMWの「X5」を使って2013年の3月から5月にかけて試験を行いました。

その結果、試験場での排出ガス基準の測定では基準をクリアしているのに、路上試験では、基準の10~40倍のNOxを排出していることが分かりました。

ICCTは2014年5月に、この研究結果を公表したのですけれども、この報告をみてカリフォルニア州の大気資源委員会が調査に乗り出しました。けれども、検査を何回やり直しても路上と試験場で結果が異なっていました。

業を煮やした調査官らは、とうとう車のコンピューターに格納されているデータを調べ始め、ついに、ハンドルの動きなどから排ガス検査中であるかどうかを識別するソフトウエアを発見します。

フォルクスワーゲンの技術者は、何ヶ月もの言い逃れの末、今年9月3日に排ガス検査で誤魔化しをするための「装置」を車に取り付け、そのことを1年以上、大気資源委員会とアメリカ環境保護局に隠してきたと自白したのですね。

これについて、大気資源委員会のスタンリー・ヤング報道官は、「われわれが集めた証拠とデータの蓄積の前に、彼らは文字通り言い訳の種が尽きた」と述べていますから、相当執拗に追及したものと思われます。

問題のウェストバージニア大学の調査結果は、こちらの「In-use emissions testing of light-duty diesel vehicles in the U.S.」になると思われますけれども、この報告書の62ページに、路上走行でのNOx排出結果のグラフが記載されています。次に引用します。

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路上試験コースは、高速道路(Route1)、ロサンゼルス市街地(Route2)、丘陵地帯(Route3)、サンディエゴ市街地(Route4)、サンフランシスコ市街地(Route5)の5つ。試験車はVehicleA,B,Cの3車種で、緑の点線がアメリカの排気規制である「Tier2-Bin5 Standard」の規格です。
こちらのニュースで「The ICCT conducted in-use tests, using portable emissions modeling systems, on three vehicles: a VW Jetta, a VW Passat, and a BMW X5.」の記載があることから、VehicleA:VW ジェッタ、Vehicle B:VW パサート、Vehicle C:BMW X5と思われます。

これをみると、VehicleA,Bはどのコースでも、排気規制値を軽くオーバーしていることが分かります。燃費がよく、低排気にしやすい筈の高速道路(Route1)でさえ大きく基準値を超えています。話になりません。流石にこの結果を見せられたら、カリフォルニア州の大気資源委員会が調査に乗り出すのも無理ありません。

では、なぜ、路上試験と試験場での結果が大きく異なってしまったのか。その秘密は、排ガスを測定する際の車の走行モードの差にあります。

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2.走行モード

通常、試験場で排ガスを測定するとき、車をシャーシダイナモメータと呼ばれるローラーの上に乗せ、定められたパターンに沿った加減速を繰り返した状態で測定します。

そのパターンにはいくつかの種類があり、それらを「走行モード」といいます。

「走行モード」とは、市街地とか高速道路を走行したと仮想して、発進後何秒加速、何秒定速、何秒減速と定めたもので、例えば、日本車のカタログの燃費の注釈として記載されていた「10・15モード」は、市街地走行をモデルにして作られた「10モード走行試験」と高速走行(といっても70km/h)の「15モード走行試験」を合わせたものです。

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けれども、「10・15モード」は22秒間アイドリングしてから発進するなど、実際の運転とはかけ離れているという指摘がありました。そこで、より実際の運転に近づけるために、細かい速度変化や、エンジンが冷えた状態からスタートする測定などを加えた「JC08モード」という走行モードが定められています。
※それでもエアコンは使用しないなど、実使用状態とはまだ差があります。

既に2013年3月から、燃費表示は「JC08モード」に統一されていて、大凡、一般的に「JC08モード」の燃費の方が「10・15 モード」の燃費より大体1割ほど低くなる傾向があるようです。

これらの走行モードは日本の走行モードですけれども、走行モードは、国によってそれぞれ定められています。

次の図は、ヨーロッパの走行モードとアメリカの走行モードのパターン図なのですけれども、ヨーロッパがに市街地想定の「ECE15モード」と高速想定の「EUDCモード」の2つの走行モードを設定しているのに対して、アメリカは更に細かく、5つの走行モードが用意されています。

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アメリカの5つの走行モードは、ヨーロッパと同様に、市街地走行を想定した「LA-4(コールドスタート)」、「FTP75テストモード(コールド&ホットスタート)」と高速走行を想定した「HWFETモード」に加えて、急加速運転用の「US06モード」とエアコンを作動させた状態での「SC03」があります。

それ以外にも、アメリカの走行モードのパターンは、日本の「10・15モード」やヨーロッパの走行モードとは違い、フラットな区間が殆どないという特徴もあります。

フラットな区間というのは、速度が変わらない区間ということですから、この間はエンジンの回転数を一定にして走行できますし、ギアを変えて、より燃費のいい低回転で走行することもできますね。つまりフラットな区間が長ければ長いほど、その分低燃費および低排気ガスで走れるというわけです。

その意味では、アメリカの走行モード試験は、日欧より厳しい基準であるといっていいと思います。とはいっても、所詮は路上を想定した試験場での走行モードですから、路上試験での結果ほど酷くはならないということは十分考えられます。

ウェストバージニア大学の報告書では、それについても調査報告しています。

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上の図は、VehicleA,B(VW Jettaと VW Passatと思われます)の各走行モードでのNOx排出量のグラフですけれども、「US06モード」での排出量がダントツです。「US06モード」は急加速、急減速のモードですから、おそらくエンジンを目一杯吹かしているものと思われます。まぁ、都市部では、発進と停止を煩雑に繰り返すことが多いでしょうから、都市部での走行パターンは「US06モード」の方がより現実に近いと見ることもできるわけですね。ただ、これだと話にならないくらいNOxを排出する結果となっています。

報告書の24ページには、路上試験での走行パターンのグラフがありますけれども、これをみると、市街地コース(Route2,4,5)ではフラットな区間が殆どなく、加速と減速を煩雑に繰り返していることが分かります。この走行パターンは、やはり「US06モード」の走行パターンに近い、あるいはそれ以上ですから、路上試験でのNOx排出量が規制値をはるかに超える結果となったのも当然といえます。

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欧州当局が、国際クリーン交通委員会(ICCT)に欧州車の路上走行での排ガス検査を委託したのは、ディーゼルエンジンによる大気汚染を心配して、アメリカでの路上検査であれば、欧州よりも、より試験場での検査結果に近くなるだろうと思ったらしいのですけれども、路上試験の走行パターンは、どうみても、「EUDCモード」より厳しい。これでなぜ、欧州当局が試験場での検査結果に近くなるなどと考えたのか不思議ですね。

ともあれ、今回のフォルクスワーゲンの不正は、フォルクスワーゲンに対する信頼を大きく傷つけることになりました。

ドイツの雇用の7分の1は、自動車とその関連産業で支えられているそうですから、今回の不正は、事によるとフォルクスワーゲン社だけの問題にとどまらない可能性すらあります。

実際、ドイツのフランクフルト市場では、フォルクスワーゲンの株価は2日間で35%近い大幅な下落を記録しましたけれども、他の自動車関連の株も落ち、ドイツの株価指数は前日終値から3.8%の下落。そればかりか、フランス、イタリア、イギリスなどでも軒並み株価指数が落ちています。

今回の問題は、世界に大きく波及するかもしれません。

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