企業が内部留保を設備投資に振り向けない二つの理由

今日はこの話題です。
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1.新しい資本主義実現会議


10月26日、岸田総理は新しく設置した「新しい資本主義実現会議」の初会合で、最優先で取り組む課題について、緊急提言案を取りまとめるよう指示しました。

この会議は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくために、それに向けたビジョンを示し、その具体化を進めるものとして設けられました。

総理大臣官邸で開かれた初会合には、岸田総理や山際経済再生担当大臣のほか、投資信託会社会長の渋沢健氏ら民間の有識者が出席しました。

この中で、岸田総理は「成長戦略によって生産性を向上させ、その果実を賃金の形で分配することで広く国民の所得水準を伸ばし、次の成長を実現していく『成長と分配の好循環』が重要だ」と述べた上で、「デジタルやクリーンエネルギー技術を柱とする科学技術立国の推進」や「半導体分野などでの強靭なサプライチェーンを構築する経済安全保障の強化」、「官と民の連携による人への投資」など内閣が最優先で取り組む課題について、来月上旬にも緊急提言案を取りまとめるよう山際大臣に指示しました。

そして「デジタル田園都市国家構想実現会議」や「デジタル臨時行政調査会」を立ち上げるほか「新たな全世代型社会保障構築会議」を設置し、看護師や介護士などの所得の向上のため、報酬や賃金の在り方を検討する委員会を設ける考えを示しました。

これについて山際経済再生担当大臣は、閣議後の記者会見で「緊急提言の中身には経済対策も含まれる。さらには来年の通常国会に向けて、法改正などが必要になるものもゼロではなく、税に関して触れる可能性も十分ある。緊急提言なので、足元の経済対策が大きいとは思うが、ある程度、方向性のあるものとして出すことをイメージしている」と述べました。

また、松野官房長官も「会議では今後、新しい資本主義や実現する具体的な施策を議論し、来春には取りまとめを行う予定だ。メンバーは、およそ半数が女性で、老壮青の各世代から構成され、いずれも各分野での経験や見識を持っている方だ。今後もマクロ経済の視点や国際的な視点、デジタルやスタートアップの視点、労働者や中小企業の視点など、さまざまな視点から議論していただきたい」と述べています。


2.内閣が最優先で取り組む課題


この新しい資本主義実現会議の初会合の内容については、内閣官房のサイトにアップされていますけれども、その中で、新しい資本主義実現に向けた論点として次の2点があげられています。

・我が国が目指していく新しい資本主義の姿は如何にあるべきか。
・分配の原資を稼ぎ出す「成長」と次の成長につながる「分配」を同時に進める。「政府」、「企業(経営者、働き手、取引先)」、「イノベーション基盤(大学等)」といった各主体が果たすべき役割、「国民・生活者」の参画の在り方、官民それぞれが役割を果たす中での協力の在り方とは何か。

何やら大上段に振りかぶっていますけれども、「新しい資本主義」とは何かから始まり、その中で、政府、企業、国民の役割とは何か、が論点だとしています。

要するに、「新しい資本主義」とは何ぞや、これから考えよう、全ては白紙だということです。

11月5日現在では、まだ初会合の議事録が公開されていないので、どんな議論がされたのか分かりませんけれども、このほとんどゼロからのスタートであるにも関わらず、岸田総理は、今月初旬に提言を纏めるようにと指示を出しました。

もちろん、スピード感を持ってやることは悪くはありませんけれども、報道では「科学技術立国の推進」や「経済安全保障の強化」、「官と民の連携による人への投資」などが内閣が最優先で取り組む課題となっています。

まぁ、実態として、官僚の振り付け通りに進んでいるだけなのかもしれませんけれども、すくなくとも岸田総理には「新しい資本主義」とは何かについて実現会議に考えさせるのではなく、なんらかの世界観に基づいた上で「新しい資本主義」とは何であるのかを指し示していただきたいと思います。

いくら「成長と分配の好循環」や「コロナ後の新しい社会の開拓」がコンセプトなのだといわれても、これらは今の社会から、別の社会へと移る、いわゆる"状態遷移"であって、確固たる方向がある訳ではありません。ベクトルというよりスカラーに近いと思います。

したがって、人生観・歴史観・ビジョンといった進むべき道をも指し示す、ベクトルであるところの「世界観」とするには足りないと思います。


3.内部留保に大きく課税すれば企業は日本の外に逃げる


新しい資本主義実現会議の資料には、次の成長に向けた分配政策として、賃金・所得引き上げによる民間における分配が政策の一つとして挙がっています。

これについて岸田総理が「従業員一人一人の給与を引き上げた企業を税制で支援する」と述べていますけれども、具体的には賃上げを実施した企業に対する法人税の優遇措置の拡充を考えているようです。

現在、企業が賃上げに慎重姿勢を崩さないのは、将来の成長期待が低いからだとの指摘があります。岸田総理は成長戦略として、科学技術立国の実現や地方のデジタル化などを掲げていますけれども、明治安田総合研究所の小玉祐一氏は「力不足感があり、成長が実現しないと日本経済は縮小均衡に陥る」と述べています。

また、村上財団代表理事の村上絢氏は「日本は分配するほど、成長が著しくなかった……企業が過去最高益を更新し、株価も一時3万円を超えましたが、企業が利益を得てきたところは海外。内需ではなくて外需で稼いできた……それを日本国内でどう返すかのは難しい問題」述べ、日本企業は内部投資があるにも拘わらず、成長投資が促進されていないことだと指摘しています。

なんでも、東証1部2部に上場している2500社のうち、その10%以上の会社が時価総額より多い現預金を持っていたり、政策保有株式を持っていたりするのだそうです。

村上氏は、企業の内部留保へ課税し、投資することで税率が下がるなど、プラスの側面があるというような政策を出すことが必要だと述べています。

けれども、岸田総理は政調会長時代、企業の内部留保への課税には否定的でした。

岸田総理は2017年10月15日のNHK番組での討論で「内部留保に大きく課税すれば企業は日本の外に逃げる」と述べ「内部留保を活用する発想はわれわれも強く持っている」として、課税ではなく、設備投資などにお金を使った企業へのインセンティブが大事だと強調していました。

岸田総理の考えが当時と変わっていないのであれば、内部留保へ課税する可能性は低いと思われます。

それ以前に、なぜ企業の内部留保が多いのかという原因を分析せずにあれこれ策を弄しても効果は薄いのではないかと思います。


4.企業が内部留保を設備投資に振り向けない二つの理由


第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、企業が内部留保を設備投資に振り向けない要因として「投資したい案件がなくて将来の投資に備えて積み立てている」ことと「先行きに何が起こるか予想できないので、そうした不安に備えている」の2つを挙げています。

けれども、いずれの動機であっても、金融機関が必要に応じて融資に応じてくれるのであれば、過剰に内部資金を積み上げることは合理的でないとし、「いざというときに金融機関が応じてくれないのではないかというトラウマがあると考えられる」と指摘しています。

このトラウマとは、おそらくバブル崩壊やリーマンショックのことを指していると思われますけれども、そうだとすれば、このトラウマが解消されない限り、内部留保は依然堪り続けるということになります。

熊野氏は「企業の金あまりを解消するには、規制緩和によって投資機会を増やすのが正攻法である」と述べていますけれども、これはそのまま政府の成長戦略にあたります。

先程、岸田総理が打ち出している、科学技術立国の実現や地方のデジタル化といった成長戦略に対し、明治安田総合研究所の小玉祐一氏が「力不足感がある」と指摘していることを取り上げましたけれども、筆者にしてみれば、世界観がないゆえに力不足になってしまっているのではないかとも思えます。

なぜなら、戦略の階層のいうところの最上位戦略階層である世界観は、抽象的かつその下の全ての戦略階層を包含するが故に、他のいろんな可能性を連想させるからです。

たとえば、高市政調会長ではありませんけれども、「国家の使命、すなわち国民の生命、財産、領土を守り抜くこと」を
世界観として掲げ、そのための手段の一つとして「科学技術立国の実現」「地方のデジタル化」といった政策を打ち出すとします。

すると、同じ科学技術立国の実現であったとしても、国防やエネルギー安保方面での技術により注目が集まるでしょうし、地方のデジタル化にしても、それによって情報拠点が分散化され、サイバー抑止力が高まるのではないかとか、いろんな連想が働くと思うのですね。

そうなれば、そっち方面の企業が目を付けられ、場合によっては、動意づいて株が上がるなんてことも期待できます。

ですから、同じ政策を出すにしても、世界観から紐づけてやることで、あとは「下々」の者達が勝手に考え、動き出すこ可能性があると思うのですね。そのとき、政府が規制やらなんやらで邪魔しなければ、その中から未来産業が生まれてくることだって十分あり得ると思います。

熊野氏の指摘する規制緩和によって投資機会を増やすことで企業の内部留保を解消する、というのはこれではないかと思います。

岸田総理には、内部留保するよりも投資する方がずっと儲かる、そういう世界観を出したうえで政府の規制を撤廃していく、そうした政策を望みたいですね。


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