ワニの口と公開討論

今日はこの話題です。
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1.矢野外務次官更迭論


財務省の矢野康治次官が今月発売の月刊誌「文芸春秋」11月号に寄稿し、最近の国会での政策論争を「バラマキ合戦」と指摘して財政再建の重要性を訴えた問題について、与野党から批判が相次いでいます。

自民党の高市早苗政調会長は10日のNHK番組で「基礎的財政収支にこだわり、困っている人を助けないのはばかげた話だ」と批判。政調幹部も「事務方トップとして軽率」と更迭を主張し、公明党からも「政治は国民の声を受け止めて合意をつくる立場にある」と不快感を示す声が出ており、政権内には実際に次官交代を模索する動きがあるようです。

11日、松野博一官房長官は午前の会見で「私的な意見を述べたものと承知している」との考えを示し、交代の可能性については「現時点でこれ以上の答えは控えたい」と回答を避けました。

今回の寄稿については、矢野事務次官が財務相だった麻生太郎副総裁に事前に了解を得たため、岸田総理と麻生氏の関係に影響が及ぶ懸念も取り沙汰されています。

党幹部は「事を荒立てない」と述べ、自民党幹部は「麻生氏がこれまで言っていることと同じだ。ブレーキのない自動車は困る」とコメント。官邸関係者も「問題ない。言論の自由だ」と指摘するなど、財政規律を重視する財務省の基本的な立場を示しただけだとして擁護する声も多いのが実態です。


2.国家公務員法102条


今回の矢野事務次官の寄稿が問題になっているのは、その論考の趣旨もさることながら、現役の事務次官が政治発言をしたことにあります。

経済評論家の三橋貴明氏は、自身のブログで「岸田内閣は、国家公務員法第102条に違反した矢野を、法律に定められているように懲戒処分にするか、もしくは『3年以下の懲役又は100万円以下の罰金』という罰則を科すべきです」と述べていますけれども、確かに国家公務員法に抵触する可能性が指摘されています。

国家公務員法102条では、公務員の政治的行為の制限として次のように定められています。
(政治的行為の制限)
第百二条 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
② 職員は、公選による公職の候補者となることができない。
③ 職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
このように国家公務員は「人事院規則で定める政治的行為をしてはならない」とはっきり定められています。

ここでいう人事院規則で定める政治的行為とは何かというと、人事院規則14-7(政治的行為)で規定されています。今回の事例に該当すると思われる部分は次の通り。
(政治的行為の定義)
6 法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。

十一 集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。
十二 政治的目的を有する文書又は図画を国又は行政執行法人の庁舎(行政執行法人にあつては、事務所。以下同じ。)、施設等に掲示し又は掲示させその他政治的目的のために国又は行政執行法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し又は利用させること。
十三 政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。

昭和二十四年人事院規則一四―七 人事院規則一四―七(政治的行為)
この人事院規則がなぜ設けられているのかといえば、同じく人事院から「人事院規則14―7(政治的行為)の運用方針について」という文書の冒頭に記載されています。それは次の通りです。
1 この規則制定の法的根拠
  この規則は、国会が適法な手続によつて制定した国家公務員法第102条の委任によつて制定されたものである。
2 この規則の目的
  国の行政は、法規の下において民主的且つ能率的に運営されることが要請される。従つて、その運営にたずさわる一般職に属する国家公務員は、国民全体の奉仕者として政治的に中立な立場を維持することが必要であると共に、それらの職員の地位は、たとえば、政府が更迭するごとに、職員の異動が行われたりすることがないように政治勢力の影響又は干渉から保護されて、政治の動向のいかんにかかわらず常に安定したものでなければならない。又、この規則による政治的行為の禁止又は制限は、同時に、他の職員の側からするこれに対応する政治的行為をも合せて禁止することによつて、職員がこれらの政治的行為の禁止に違反しないようにすることが容易に達せられるようなものでなければならない。この規則は、このような考慮に基き、右の要請に応ずる目的をもつて制定されたものである。従つて、この規則が学問の自由及び思想の自由を尊重するように解釈され運用されなければならないことは当然である。
要するに、公務員は政権が変わっても交代・異動することがない身分を保証する代わりに、政治的発言は許さないようにするというものです。

松野官房長官は、矢野事務次官の寄稿について「私的な意見を述べたもの」としていますけれども、私的であろうがなんであろうが、月刊誌である公の場で発言したことは事実であり、あとはその内容が「政治的目的を有する」と判断されるかどうかではないかと思います。


3.擁護する者達


矢野事務次官が月刊誌という公の場で発言したことは、当然ながら各所に波紋を投げかけています。

10月12日、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は記者会見で「100%賛成……書いてあるのはファクト。当たり前の話だ」と述べ、国債の残高が1千兆円に迫る先進国で最悪の財政状況を「放っておいていいはずがない」と擁護。財政再建に向けた道筋を示すよう与野党に求めました。

また、生活困窮者らへの現金給付などの対策について「それ自体に反対することはない……どこで将来負担を解消しようとしているのかに触れなきゃ、責任ある政党とは言えない」と、衆院選を前に給付策や減税策を打ち出す与野党の姿勢に疑問を呈しました。

けれども、既に嘉悦大学の高橋洋一教授らが指摘するように、矢野事務次官の論は、フローの一般会計収支とストックの債務残高のみで財政危機を語る、不十分な比較です。そんなことはSOMPOホールディングス社長でもある経済同友会の桜田幹事が知らない筈がありません。そんな論をなぜ擁護するのか理解に苦しみます。




4.個人の感想か政治的意図か


矢野事務次官がこのタイミングで今回の寄稿をしたことについて、一ツ橋大学の1年先輩であり、知り合いでもあるエコノミストの吉崎達彦氏は、10月12日の文化放送「くにまるジャパン極」で次のように答えています。

「いや~まあ、彼らしいなという。ただ、彼自身財務省の中で自分が出世するとかはまったく思っていない人なんで、それもあって言いたいことを言い続けて来たわけですよね。この論文の中にも出てきますけども、公文書改ざん問題という、とんでもない不祥事を財務省は起こしていますよね。それから矢野さんは官房長をやっていた時に、福田前事務次官のセクハラ問題というのがあって、この時は彼が福田さんが途中で辞めたあとの事務次官代理を短期間務めたりもしているんで、天下の財務省がもうガタガタになってきたところで、もう普通の人事じゃ駄目だっていう理由で、彼にお鉢が回ってきたという風に思いますね」

そして、岸田総理が打ち出している政策を止めるように進言する意図で今回の論考が出されたかについて、「矢野さんがやってるかどうかはわからないですけど、それに近いことは…財務省は組織で動くんで、ある程度はやってるんじゃないですかね? ただ矢野さんって方は私の知る限りこういう本音の方で、政治ゲームとして『文藝春秋』を使っているってことは、おそらく無いと思います」と答えています。

このように吉崎氏は、財務省には政治的意図があるが、矢野事務次官にはその積りはないだろうと述べていますけれども、矢野事務次官の個人的意見がたまたま財務省の政治的意図に沿っていたのか、財務省にそのような意図があると分かっていた上でその発言をしたかで、国家公務員法102条に抵触するかどうかのポイントになるような気もします。

ただ、財務省トップである事務次官職にある人の発言が100%私的発言と見做されるかどうかについては微妙なところではないかと思います。

吉崎氏は、矢野事務次官の更迭の噂が出ていることについて「全然平気じゃないかと。そもそも自分が事務次官というポストにいることが間違いだと思っているのでは?」と述べていますけれども、もしも矢野事務次官が更迭されたとしても、財務省の代弁のような発言を公にしたという事実は消える訳ではありません。

また、財務省にしても矢野氏が出世を望まない財務次官なのだから、更迭されても腹も痛まない。ここぞとばかりに言わせている面もあるかもしれません。


5.ワニの口は公開討論で


10月11日、矢野事務次官の論考について、財務省審議会の委員を務める増田寛也・日本郵政社長は会見で、「財務次官が述べている意見や考え方はあってしかるべき話だ。反対の方や違う意見の方もいるとは思うが、きっかけにして、国の財政のあり方について議論がなされるのであれば、それはいいことだろう」と前向きに評価しています。

ただ、矢野事務次官の考えを切っ掛けに議論とはいっても、その考えが果たして議論に適するものであるのかという視点もあります。

矢野事務次官が論考で主張している「日本の経済、財政は氷山にぶつかるぞ論」について、先に紹介した吉崎氏は「そこをまず突っ込むのであれば『貴方はオオカミ少年じゃないですか?』というのが普通の攻め方。矢野さんという方はかつて「ワニの口」という非常に有名なフレーズを作った。「ワニの口」とは、歳出が上あごで、歳入が下あごになっているから開く一方だ。財政破綻するって言い始めたのは1998年ぐらいの話なんです。それからもう20年以上経っているんだけども、むしろ金利は下がっているじゃないかと。本当に財政が破綻するんであたら金利が上昇して、大変なことになっているはずなんだけど、なってないじゃないか。そのことをおまえはどう思っているんだ?というのが、普通のツッコミ方ですね」と厳しく指摘しています。

1998年といえば23年も前の話です。

未だにこの話が俎上に上るということは、おそらく世論がそれについてよく知らないか、分かってないからだと思います。もしも、世論がこのことを知っていたら、それこそ矢野事務次官の論は「狼少年」扱いになって無視される筈ですからね。

だとすれば、同じ議論の切っ掛けにするにしても、矢野事務次官の論の妥当性について、広く国民の目の前に晒してやるべきではないかとも思います。

アメリカだと大統領が大臣に相当する各省庁の長官を指名する際、上院の担当委員会が公聴会を開いて長官としての資質や適格性などを総合的に判断して承認を与えますけれども、それと同じとはいわないまでも、国会に呼んで議論すればどうかと思います。

なんとなれば、高橋洋一・嘉悦大学教授や経済評論家の上念司氏などを呼んで公開討論して、その論の妥当性、信頼性を国民の目からもチェックすると同時に、国民自身にも財政のしくみをもっと理解して貰う機会とする手はあるのではないかと思います。

「ワニの口」はずっと開いたまま、ほぼ四半世紀経っています。けれども、そのワニは顎を外すわけでもなく平然と時を過ごしているのです。そういう事実を考えれば、そもそもにして「ワニの口」論自体を疑うべきではないかと思いますね。


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