中国の反外国制裁法と香港適用見送り

今日はこの話題です。
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1.反外国制裁法の香港導入見送り


8月20日、中国全人代常務委員会は、外国からの制裁に対抗する中国の「反外国制裁法」を香港にも適用する採決を見送りました。

全人代常務委員会は17日から「反外国制裁法」を、香港基本法の付属文書に付け加える決定について審議していて、20日に承認し、その後、修正が必要かどうかの議論を香港当局者に任せる方針だと報じられていたのですけれども、「香港の金融センターとしての役割に影響が出ないかビジネス界から懸念の声がある」、「中国政府がさらに意見の聴取を希望している」などとして、今回の会議での採決を見送ったということです。

今回の採決見送りを、香港の財界は歓迎しています。

香港総商会(HKGCC)は、「ビジネスセクターの意見や懸念に耳を傾け、十分に理解するためには、より多くの時間が必要である」と発表し、香港アメリカ商工会議所(AmCham)のタラ・ジョセフ会頭も、「この法律は、多国籍企業に大きな影響を与える可能性がある。香港アメリカ商工会議所は、国際的なビジネスコミュニティが対話に参加し、香港がグローバル企業にとって中国で最高の目的地とするために協力できることを非常に望んでいる」とアメリカ商工会議所はこのニュースを歓迎していると述べています。

また、北京の半官半民のシンクタンクである中国香港マカオ学会のラウ・シウカイ副会長は、今回の延期は、中央政府が中国本土や海外のビジネスセクターから提起された懸念に耳を傾ける意思があることを示していると指摘した上で、「北京は、制裁法を基本法に挿入すべきか、あるいは他の報復手段で代用できるかどうかを再検討するかもしれない」と述べました。

その一方、一部のプロエスタブリッシュメント系の議員は、「ビジネスセクターは、16条からなる国内法があまりにも曖昧で不明瞭だと言っていたが、北京がもっと関与して、より詳細な法律を計画した場合、それが良いのか悪いのかはわからない……30条もある法律を作って、さらに恐怖を与えることになるかもしれない」と懸念を示しています。


2.一族郎党まで報復する


「反外国制裁法」は全人代常務委員会で6月10日に可決され、即日施行された法律で、制定趣旨の大要は次の通りです。

・西側の国々は、新疆・香港地区関連の様々な口実を利用して、中国に対して「制裁」を科し、内政干渉を行ってきた。
・これに対して、昨年11月に習近平総書記が「中共中央全面依法治国工作会議」において、対抗すべき旨を既に指摘していたが、今年3月の全国「両会」(全国人民代表大会・全国人民政治協商会議)の前後に、外国の差別的措置に報復するための法律を制定する必要性が各委員、各界から指摘された。「全人代常務委員会活動報告」では「今後1年の主要任務」の中で、反制裁、反干渉、管轄権の域外適用への対抗措置に対する法的ツールボックス(「道具箱」)を拡充することを明確に打ち出した。
・これを受け、常務委法制活動委員会が諸外国の法制を研究し、草案を作成した。
・これまで、商務部による「信頼できないエンティティ・リスト」「外国法令の不当な域外適用の阻止弁法」等の行政規制によるものはあったが、今回の立法で法的根拠が整備されることになる。
要するに、西側諸国の対中制裁に対する報復制裁に関する法的根拠を整備したということです。

中国本土の「反外国制裁法」については、一般財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC) が仮訳を公表しています。それは次の通りです。
中華人民共和国反外国制裁法(仮訳)  
CISTEC仮訳


中華人民共和国主席令
第九十号


《中華人民共和国反外国制裁法》は中華人民共和国第13期全国人民代表大会常務委員会第29回会議が2021年6月10日に採択した。今ここに公布し、公布の日より施行することとする。

中華人民共和国主席習近平

2021年6月10日
(2021年6月10日第13期全国人民代表大会常務委員会第29回会議可決)

第一条 国の主権、安全、発展の利益を擁護し、我が国の公民、組織の合法権益を保護するため、憲法に基づいて、本法を制定する。

第二条 中華人民共和国は独立自主の平和外交政策を堅持し、主権と領土の保全性の相互尊重、相互不可侵、内政の相互不干渉、平等互恵、平和共存の5原則を堅持し、国連を中核とする国際体系と国際法を基礎とする国際秩序を擁護し、世界各国との友好協力を発展させ、人類運命共同体の構築を推し進める。

第三条 中華人民共和国は覇権主義と強権政治に反対し、いかなる国がいかなる口実、いかなる方式によって中国の内政に干渉することに反対する。外国国家が国際法と国際関係の基本準則に違反し、各種口実やその本国の法律に依拠して我が国に対して抑制、抑圧を行い、我が国の公民、組織に対して差別的規制措置を講じ、我が国の内政に干渉したならば、我が国は相応の報復措置を採る権利を有する。

第四条 国務院の関係部門は本法第三条に規定した差別的規制措置の制定、決定、実施に直接、あるいは間接的に関与した個人、組織を報復リストに加えることを決定することができる。

第五条 本法第四条の規定に基づいて報復リストに加えた個人、組織の他に、国務院の関係部門はさらに以下の個人、組織に対して報復措置を講じることができる。
(一)報復リストに加えた個人の配偶者と直系親族;
(二)報復リストに加えた組織の高級管理職員あるいは実質支配者;
(三)報復リストに加えた個人が高級管理職員を担当する組織;
(四)報復リストに加えた個人と組織が実質的に支配する、あるいは設立、運営に関与する組織。

第六条 国務院の関係部門は各自の職責と職務分業に基づいて、本法第四条、第五条に規定する個人、組織に対して、実際の状況に基づいて以下の一つあるいは複数の措置を講じることを決定することができる:
(一)査証を発行しない、入国禁止、査証取消、あるいは国外追放;
(二)我が国国内にある動産、不動産やその他の各種財産の差し押さえ、押収、凍結;
(三)我が国国内の組織、個人との関連取引、協力等の活動の禁止あるいは制限;
(四)その他の必要な措置。

第七条 国務院の関係部門が本法第四条から第六条の規定に基づいて下した決定を最終決定とする。

第八条 制裁措置を講じる根拠となる状況に変化が生じたならば、国務院の関係部門は関連する報復措置を一時停止、変更あるいは取り消すことができる。

第九条 報復リストと報復措置の確定、一時停止、変更あるいは取消は、外交部あるいは国務院のその他の関係部門が命令を発布し公布する。

第十条 国は反外国制裁業務調整機構を設立し、調整にかかわる関連業務の統括に責任を負わせる。国務院の関係部門は連携・協力と情報共有を強化し、各自の職責と任務の分業に基づいて関連する報復措置を確定・実施しなければならない。

第十一条 我が国国内の組織と個人は国務院の関係部門が講じる報復措置を実行しなければならない。前項の規定に違反した組織と個人に対して、国務院の関係部門は法に基づいて処理し、これら組織・個人が関連活動に従事することを規制あるいは禁止する。

第十二条 いかなる組織と個人もすべて、外国国家が我が国の公民、組織に対して講じた差別的規制措置を実行、あるいは実行に協力してはならない。組織と個人が前項の規定に違反し、我が国の公民、組織の合法権益を侵害したならば、我が国の公民、組織は法に基づいて人民法院に訴訟を提起し、侵害を停止し、損失を賠償するよう要求することができる。

第十三条 我が国の主権、安全、発展の利益を害する行為に対して、本法の規定の他に、関連する法律、行政法規、部門規章によってその他の必要な報復措置を講じることを規定することができる。

第十四条 いかなる組織と個人も報復措置を実行せず、あるいは実行に協力しなかったならば、法に基づいて法的責任を追及する。

第十五条 外国の国家、組織あるいは個人が実施、協力、支援する我が国の主権、安全、発展の利益を害する行為に対して、必要な報復措置を講じる必要があったならば、本法の関連規定を参照して実行する。

第十六条 本法は公布の日より施行する。
反外国制裁法という名の通り、この法律では、報復措置の内容と実施義務について規定されています。

この制裁法では、第3条で、「①我が国に対して抑制、抑圧を行い、②我が国の公民、組織に対して差別的規制措置を講じ、③我が国の内政に干渉した」場合の報復措置を第4条~第6条で定めています。

・中国に対する差別的措置の策定・実施や国内問題への干渉に直接的又は間接的に関与した個人・組織を「対抗措置リスト」に指定できる
・報復リストに加えた個人、組織の他に「①それらの個人及びその直近の親族、②それらの組織の経営に当たる者又は実質的に支配する者、③それらの個人が経営層である又は実質的に支配する組織」を含めることが出来る
・「対抗措置リスト」および報復措置を行う対象に対し「(1)ビザ発給の拒否、入国拒否、ビザの発給取消、国外退去、(2)中国国内に存在する動産・不動産及びそれ以外の財産の差押え、押収、凍結、(3)取引や協力の禁止・制限、(4)その他の必要な措置」を講じることが出来る

要するに、報復をする時、相手の一族郎党まで報復するということです。

そして、第11条で、中国国内の個人・組織には上記対抗措置を実施する義務が課され、第12条では個人・組織には外国の差別的措置や干渉を実施・支援してはならない義務と違反したときの差止めや損害賠償を定めています。

更に、第14条では報復措置を実行しなかったら、法的責任を追及する、とあります。

一見、大上段に構えた法のように見えなくもないのですけれども、対抗措置リストへの指定も報復の実施も「出来る」とあるだけで「行う」にはなっていません。つまり、当局の裁量の余地が残されている訳で、「人質外交」ではないですけれども、報復を交渉カードとして使うことを想定しているのかもしれません。


3.金融都市・香港


20日に採決されると見られていた反外国制裁法の香港適用がなぜ見送られたのか。

これについて、香港建制派(非民主派)の政治評論家、ラウ・シウカイ氏は、「北京がこの問題を研究するのにより多くの時間が必要だと考える理由は理解できる」と述べ、圧力は地元企業と外国企業の両方から来たのではないかとの見解を示しています。

また、ある法学者は、現地の法律はとにかく時間がかかるため、北京は緊急性を感じないかもしれないと述べ、更に別のオブザーバーは、ワシントンへの新しい大使とタリバンによる最近のアフガニスタンの買収により、北京は米国との関係において他の前線に対処するために優先順位を変えているとの推測を述べています。

一方、北京大学法科大学院のティアン・フェイロン氏は、「中央政府は香港関連の法律を真剣かつ科学的に受け止めています」と述べ、北京の懸念は香港の評判であると指摘しています。

共産党政府が香港の一国二制度を50年保障するとした約束を反故にした時点で、信頼がた落ちなのに今更評判を気にするなど、周回遅れの気議論ではないかと思いますけれども、反外国制裁法について香港では「本土のバージョンは少し広すぎて、市内の国際企業の間で大きな恐怖を引き起こした……心配を軽減するために地方版をより具体的にすべきだと提案する人もいれば、漠然とした法律が政府に柔軟性を与える可能性があると考える人もいる」などの声があるようです。

反外国制裁法の香港適用について、工業大学の政治学者チャン・ワイキョン氏は、「最近のニュースは、すでに西側またはここの外国企業に抑止効果を生み出している可能性がある。これらの企業は、制裁措置に訴えないように自国政府に働きかけることさえあるかもしれない。さもなければ、香港が制裁措置を開始したときに企業自体が犠牲になる可能性がある」と指摘し、財務秘書やその他の法執行官は、コンプライアンスを監視し、香港の国際的な評判が損なわれないようにするための特別委員会を設立する任務を負うとの見解を示しています。

一方、香港志明研究所の研究責任者であるホイチン氏は、「香港の金融システムは基本的に西洋のシステムで動作し、米ドルが支配的なグローバル決済システムを使用している……香港がここで銀行を制裁するための対抗策を開始する場合、それは必然的に国際金融取引を中断するだろう。それはアメリカとの金融戦争を引き起こすことになる。香港にその余裕があるのか?」と、金融システムに損害を与えることなく、実施できるかどうかと疑念を呈しています。

昨年7月22日のエントリー「香港のドルペッグが崩壊する日」で、筆者は、中国の大手銀行がアメリカの金融から締め出されてしまうと、ドルが調達できなくなって「ドル不足」に陥り、これまで香港を支えてきたドルペッグ制度が揺らぐことになると述べたことがありますけれども、さしもの中国当局もこのあたりを懸念したのかもしれません。

最近の習近平政権は英語教育を削減・停止し、「習近平思想」を必修にするなど自ら西側社会からのデカップリングを進めているように見えますけれども、経済をも切り離してやっていけるのかは分かりません。

もしも、今後、中国経済が立ちいかなくなったとき、逆に香港の存在がその重要性を増してくるのかもしれませんね。


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