習近平と共産党とのデカップリングは成功するか

今日はこの話題です。
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1.オバマ路線とトランプ路線


台湾への関与など、対中政策でトランプ路線を継続しているとも言われるアメリカのバイデン政権ですけれども、必ずしもそうではないという見方もあります。

5月4日、バイデン政権の大統領副補佐官でインド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は「ウォール・ストリート・ジャーナル」がニューヨークで主催した、大企業代表たちが出席するシンポジウム形式の会議で演説しました。

演説は対中政策が主なもので、キャンベル氏はバイデン政権の中国へのアプローチについて、「オバマ政権の対中協力という努力と、トランプ政権の"中国に対抗"という強硬路線の、両方からの借用だと特徴づけられる」と述べました。演説の骨子は次の通りです。
・バイデン政権の対中政策は、オバマ大統領とトランプ大統領のそれぞれの中国に対する政策要素の混合である。両方の政策の合成だともいえる。

・オバマ、トランプ両政権のそれぞれの中国へのアプロ―チには英知が含まれているが、同時にそれぞれに矛盾も存在した。私たちバイデン政権としては、中国と共通の懸念を抱く課題について、中国と協力できる領域への関心を高めている。

・バイデン政権は、中国に対して「攻勢的」と「防御的」の両方の措置をとっていくだろう。中国との競合では、テクノロジー分野への投資を強め、中国で活動する米国企業への中国側からの侵害を防ぐ手段もとることになるだろう。

また、キャンベル氏は、台湾問題について、以下の趣旨を語っています。

・中国政府は台湾問題に関して現状維持を保つべきだ。台湾が完全な独立を宣言するような方向には動いていないことを中国側は認識するべきだ。

・バイデン政権は台湾への直接的な関与を深めることで支援を続けていく。台湾に必要な自衛能力への支援も継続していく。
もっとも、このようなバイデン政権の対中姿勢に対し、トランプ前政権の元高官などからは、「軟弱となったことで中国側を増長させ、アメリカに対する言動をこれまでよりも攻撃的にした」という批判がぶつけられているそうです。


2.バイデン政権の本性


キャンベル氏がいう「台湾問題に関して現状維持を保つ」というのは、台湾が中国に武力攻撃を受けた際に、アメリカがどう対応するか明言しないでおくという、いわゆる「戦略的曖昧さ」のことです。

これについて、軍事社会学者の北村淳氏は、キャンベル氏がオバマ政権時代に南シナ海問題を巡って中国に妥協的な政策をとった張本人として対中強硬派から「目の敵」にされていたとし、そのキャンベル氏がかつてのように、中国と台湾を巡ってうやむやな立場を取り続けることによって、「曖昧な安定」という現状維持を継続させるべきであると主張したことから、バイデン政権は、トランプの親台湾政策をあたかも踏襲するポーズをとっていたのが曖昧戦略への回帰修正が開始されたと述べています。

北村氏は、この結果、これまでアメリカ海軍が頻繁に実施していた台湾海峡通航や南シナ海でのFONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)は偶発的軍事衝突を引き起こしかねないという理由で徐々に減らされるか、あるいは実質的に軍事的価値のない作戦に制限される可能性が高いと指摘。キャンベル氏やバイデン政権にとって、尖閣諸島の日本主権を支持するための東シナ海での中国への軍事的圧力などは論外ということになると警告しています。



3.台湾曖昧戦略への回帰


6月8日に行われた新アメリカ安全保障センター(CNAS)主催のイベントでキャンベル氏は「過去1、2年で中国に最も問題をもたらした国はアメリカではなく中国だ」と、中国の政策に世界的な反発を招いた唯一の責任は中国自身にあるとの考えを示しました。

キャンベル氏は、南シナ海の人工島・岩礁の軍事拠点化や自国主張を強める外交姿勢を含めて、中国の政策が世界的反発の要因になっていると中国の外交政策当局も理解しているとしながらも、「中国指導部の最中枢にまでそれが伝わっているかという質問に対し、我々には答えがない」と述べました。

更にキャンベル氏は習近平国家主席について、歴代の中国国家主席の場合のように「複数のリーダーから成るまとまりのあるチーム」の一員というよりも、単一の指導者としての地位を固めつつあると分析。習主席の意思決定を導く助けになる人々のグループは「ますます少数に絞られている」との認識を示し、楊潔篪共産党政治局員や王毅外相ら外交トップは、習主席の側近というには遠く及ばないとした先月の別のイベントで発言について尋ねられると、「両氏は中国の有能な代表であり、大いに尊敬の念を抱いている」と答えました。

習近平主席の意思決定を助ける人々が少数になり、楊潔篪共産党政治局員や王毅外相が側近に遠く及ばないのであれば、彼らは習近平主席の「意思決定を助ける人々」の中には入っていないということでしょう。それでいて「中国の有能な代表」というのであれば、それは習近平主席の「操り人形」として中国を代表しているということではないかと思います。

キャンベル氏はまた、先日のアメリカ上院議員団による台湾訪問について、アメリカが「台湾を支持」しているとはっきり示す意味で効果があったと述べる一方、アメリカとして台湾に防衛「物資」の供与を続けることにコミットしているが、台湾も自ら防衛力強化のための措置を講じる必要があると述べています。

なにやら台湾を支持はするがアメリカは対中最前線に立たないと言っているようにも聞こえなくもありません。やはり、アメリカの台湾曖昧戦略への回帰修正がなされていると見てよいかもしれません。


4.The Longer Telegram


今年1月、アメリカのシンクタンクである大西洋評議会(Atlantic Council)が「The Longer Telegram」という論文を掲載しました。

論文では、習近平は科学技術、経済、金融、軍事全ての分野でアメリカと同等以上の地位を目指しており、ロシアとの協力を進め、「一帯一路」による経済のブロック化を目指す等、世界秩序を自らに都合の良いものに変えることを目論んでいると分析しています。

そして、アメリカはこれらの挑戦に立ち向かわなければならないとし、アメリカ自らが経済、金融、軍事の分野で優位を保つ努力をすることはもちろんのこと、同盟国やパートナー国と協力しなければならないと論じています。

論文では、習近平主席の意思決定過程は、従来の中国共産党の意思決定過程と大きく異なっていると分析。習近平主席は権威主義的傾向を強めており、意思決定は共産党ではなく、習近平とその周辺により決定されることから、共産党ではなく習近平個人に注目すべきであると主張しています。

また、対中政策として、「超えてはならない一線(レッドライン)」を明確にすべきだとし、そのレッドラインとして次の5つを挙げています。
・中国及び北朝鮮による大量破壊兵器の使用
・台湾への軍事攻撃、経済封鎖、サイバー攻撃
・東シナ海や尖閣諸島周辺で日本の国益保護活動を行っている日本自衛隊への攻撃
・南シナ海における新たな埋め立て、軍事化及び航行及び飛行の自由の阻害
・アメリカ同盟国への軍事攻撃
論文では、具体的施策として、日米豪印によるクアッドを、4ヶ国による取り決めとして正式の組織とすることに加え、韓国が中国に傾斜することを防ぐ為、日韓に関係改善を促すことがあげられているそうです。

そして、更に、ロシアを中国同様に戦略的競争相手とした点や、中国共産党を攻撃目標としたトランプ政権を批判し、ロシアと中国、そして習近平主席と中国共産党のデカップリングを図るべきと主張し、中国には北朝鮮、パキスタン及びロシアぐらいしか信頼できる国はいないが、アメリカには多くの同盟国があることが強みだとて国際的枠組みの重要性を強調しています。


5.習近平と共産党とのデカップリングは成功するか


件の論文の著者は匿名なのですけれども、中国に深い知見を持つアメリカ政府関係者と見られているようです。その証拠にバイデン政権の外交はこの論文を下敷きに動いている節があります。

2月4日、バイデン大統領は「世界におけるアメリカの位置(America's Place in the World)」という外交方針に関する演説を行いました。

この中でバイデン氏は外交方針について、次のように述べています。
この2週間、私は、カナダ、メキシコ、英国、ドイツ、フランス、NATO、日本、韓国、オーストラリアなど、多くの親しい友人たちのリーダーと話をしました。これらの友人たちは、過去数年間の怠慢と、私が主張するように乱用によって萎縮してしまった協力の習慣を改革し、民主的な同盟関係の筋力を再構築するために活動しています。

アメリカの同盟関係は我々の最大の資産であり、外交で主導するということは、同盟国や主要なパートナーと再び肩を並べることを意味します。

外交で主導するということは、我々の利益になる場合には、敵対者や競合他社に外交的に関与し、米国民の安全保障を促進することでもあります。

だからこそ、昨日、米国とロシアは新START条約を5年間延長することに合意し、核の安定性を守る両国間の唯一の条約を維持することにしたのです。

同時に、私はプーチン大統領に対し、前任者とは全く異なる方法で、ロシアの攻撃的な行動(選挙への干渉、サイバー攻撃、国民への毒物混入など)を前に、米国が屈する時代は終わったことを明確にしました。 我々は、ロシアに対するコストを引き上げ、我々の重要な利益と国民を守ることを躊躇しません。 また、ロシアへの対応は、志を同じくする他のパートナーと協調して行うことで、より効果的になります。
この中の「過去数年間の怠慢と、私が主張するように乱用によって萎縮してしまった協力の習慣」という表現はトランプ前大統領の「アメリカファースト政策」のことだと思われますけれども、そこから脱してパートナー国との協力強化とロシアに対してトランプ政権と「全く異なるアプローチ」を取ると明言しています。

これには、ロシアと中国とのデカップリングを主張する件の論文の影響が感じられます。

更に、習近平主席と共産党とのデカップリングについても、そういう視点で先に取り上げたキャンベル氏の発言を振り返ると、「習近平主席が単一の指導者としての地位を固めつつあり、彼の意思決定を助ける人々が少数に絞られている」との認識はそれを裏打ちしているように思えます。

ただ、習近平主席と共産党とのデカップリングが現実に実現するかというと、かなり眉唾だと思いますし、仮に習近平主席を失脚させることができたとしても、第二第三の習近平が生まれるだけで、中国共産党が変わる訳ではありません。

その意味では、習近平主席と共産党とのデカップリング戦略は中国共産党の態度を硬化させるだけで失敗に終わるのではないかと思いますね。


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