日本の領海警備方針はサラミスライスを鈍らせるか

今日はこの話題です。
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1.王毅外相の記者会見


3月7日、中国の王毅外相は北京で開催中の全人代にあわせて記者会見しました。

香港問題などでアメリカが批判を強めていることについて、王毅外相は「民主や人権の旗を掲げて他国の内政に干渉し、動乱の原因を作ってきた」など反論し、ウイグル人へのジェノサイドが行われているとの指摘にも「言語道断で下心のあるデマだ。一部の西側の政治家が問題を作り出している……ジェノサイドと聞いて多くの人が思い至るのは、16世紀の北米大陸の先住民や19世紀の黒人奴隷らのことだ」と批判しました。

また、アメリカが関与を強める台湾についても「両岸の統一は必然」としたうえで、「『一つの中国』原則は中米関係の政治的基礎で、越えてはならない一線だ。前政権の『火遊び』のような危険な手法は徹底して改めるべきだ」と牽制しました。

まぁ、他国への内政干渉にしてもジェノサイドにしても、中国自身がやっていることです。とりわけジェノサイドはアメリカがやったことではないかという言い草は、論点をどっちもどっち論に持ち込んで、うやむやにしようとするよくある手口です。

けれども、"16世紀の北米大陸の先住民や19世紀の黒人奴隷ら"は、文字通り過去のことある一方、中国のジェノサイドは現在進行形です。同じ時間軸で互いに同じことをやっているのなら、どっちもどっち論も多少は説得力があるのですけれども、過去と現在をごっちゃにして、どっちもどっち論を振りかざしても、「過去を反省したからこそ、人権を尊重するという今があるのだ。その人権を踏みにじるお前は、今への反逆者だ」と言い返されて終わりです。

過去を持ち出してのどっちもどっち論しか言えないところに、中国の苦しさが滲み出ています。


2.全ての国が対象


王毅外相の記者会見では、記者の質問とその回答もあったのですけれども、日本に関連する部分については、共同通信の北京特派員が行いました。

ジャーナリストの近藤大介氏によると、そのやり取りは次のようなものだったそうです。

共同通信記者「日中は昨年、中国の(習近平)国家主席の訪日構想があり、関係を改善しようという気運もあったが、最近、中国で『海警法』が出て以降、日本国内には中国に対する警戒感が高まっている。大臣はこれをどう考えているか? こうした状況下で、日本政府は今年7月に東京オリンピックを開催すべく準備中であり、北京冬季オリンピックも開幕まで一年を切った。オリンピックの方面で、日本との協力は考えられるのか?」

王毅外相「ここのところ、中日両国のリーダーは双方とも『互いに協力するパートナーであり、互いに脅威を与えない』という重要な共通認識に達している。両国の国民は、コロナ対策で、『山川は異なれど、風月は同じ天のもとにある』という佳き話を反芻した。両国の貿易投資面での協力は、コロナ禍によるマイナス成長を克服した。こうした積極的な発展が示しているのは、中日関係の改善、発展は両国国民の利益に合致し、地域の平和と安定にも利をもたらすということだ。容易ではないが、大事にする価値があるということだ。

中日関係は成熟し、安定したものに向かい、かつそうした状況を保持するべきであって、一時一事の影響を受けてはならない。例えば、あなたがいま言った中国が発布し実施した『海警法』だが、これは一種の通常の国内法であり、特定の国家を対象にしたものではない。かつ国際法と国際実務にも完全に合致するものだ。

実際、日本を含む多くの国々が、類似する法規を以前から制定し、実施している。海上の争議は友好協商のもとに対処すべきで、武力を使用したり武力で相手を威嚇したりすべきでない。これが中国政府の一貫した立場であり、中国と周辺の隣国との間の長期的な共通認識でもある。

中日の往来に関して、何らかの問題が発生したなら、双方が対話と交渉を通じて理解を進め、相互信頼を築くことができる。日本社会が客観的、理性的な対中認識を真に樹立し、中日関係が先々まで安定していく利となる民意の基礎を真に打ち建てることを願う。

まさにあなたが言ったように、中日両国は前後してオリンピックの開催を控えている。双方が完全に相互に支持しあい、ともに盛大に開催し、両オリンピックを両国民の友好を深めるプラットフォームにし、中日関係発展、促進の機会としていく。こうしたことは可能だし、またそうしていくべきだ。今夏は東京に集い、来年には北京で会おうとはないか! どうも」/strong>
『海警法』は国内法だ、などと、また、いつもの言い方ですけれども、「特定の国家を対象にしたものではない」というのは、裏を返せば「全ての国が対象である」ということです。警戒感を持たれるのは当然です。


3.いつ軍が暴発するか分からない


近藤大介氏はこの王毅外相の発言について、中国外交部の関係者に確認したそうなのですけれども、その答えは次のようなものでした。
王毅外相のホンネは、中日関係を改善させたいし、そのための習近平主席の訪日も実現させたい。そのことをたびたび、習主席に建議しているし、習主席も訪日したい意向は変わっていないという。習主席の訪日を実現させるためには、釣魚島で日本を刺激しないことが大事だということも重々承知していて、そのことも王毅外相は習主席に建議している。だが、軍の力が強くて、どうにもならないというのが現状だ。その意味では、王毅外相の海上争議に関する部分の発言は、日本に対してというより、自国の軍を牽制する意図もあったような気がする
尖閣で日本を刺激したくないのに、軍の力が強くて、どうにもならないというのが本当であるのなら、それは中国政府が軍を統制できていないということです。畢竟、それは、いつ軍が暴発するか分からないということでもあり、周辺国は最大限の警戒と備えを持ってしかるべきです。


4.手の内をさらした領海警備


2月25日、日本政府は自民党国防部会・安全保障調査会の合同会議で、尖閣への不法上陸の過程で凶悪犯罪とみなせる行為があれば海保による危害射撃が可能になることがあると説明したことが明らかになりました。

これは、海保も警察官職務執行法に基づき武器を使用できると解釈するもので、警察官職務執行法では「相手の攻撃からの正当防衛や緊急避難、3年の懲役・禁錮以上にあたる犯罪に及ぶ現行犯の制圧」などが規定されています。

政府は、海保による対処が難しい際は自衛隊に海上警備行動が発令されるとし、岸信夫防衛相は自衛官の職務の執行にも同様のルールを準用できるとの見解を示しています。

これについて、東海大の山田吉彦教授は、「危害射撃は3年の懲役・禁錮以上にあたる犯罪に及ぶ現行犯を制圧する場合に可能だがどう見極めるのかが明確ではない。武器を確認できない場合に現場で凶悪犯とは認定できない可能性もある。中国は日本の法制度を研究し尽くした上で対応してくるだろう。まずは公船であったとしても、武器を持っているか持っていないかにかかわらず停船に応じない場合に海保が威嚇射撃、船体射撃ができるよう明文化する海上保安庁法の改正が必要ではないか。上陸前に洋上で接近してきた船を強制的に止めなければいけない」と危害射撃自体は国際法上も問題はないものの、中国海警局の船の活動抑止につながるとは限らないと指摘しています。

また、政府内でも防衛省は「中国へのメッセージにはなるが、領海警備の手の内をさらすことになる」と指摘する声や外務省からも「『こういう条件でないと危害射撃ができない』と示したようなものだ」の懸念も漏れているそうです。

それでも筆者は、明確に線引きとなる見解を出した意義は大きいと思います。

なぜなら、中国にとって、今回の線引きは、サラミスライス戦略がやりにくくなると思うからです。


5.鈍るサラミスライス


サラミスライス戦略とは、サラミを少しずつスライスするように、小さな行動を積み重ね、時間の経過とともに大きな戦略的現状変更をもたらすものです。尖閣でいえば、最初は周辺海域をうろついていたのが、段々領海に侵入して、上陸、気づいたら占領していた、というようなやり方です。

けれども、警察官職務執行法に基づき武器を使用できると規定したということは、これ以上はスライスできない線を引いたことであり、尖閣でいえば「不法上陸の過程で凶悪犯罪とみなせる行為」がその線ということになります。

もっともこれについて先に取り上げた東海大の山田吉彦教授は、武器を確認できない場合に現場で凶悪犯とは認定できない可能性もあり、どう見極めるのかが明確ではない、と指摘しています。

確かに中国は、日本が反撃してこないと舐めて掛かっているのであれば、お構いなしに尖閣侵略してくると思います。

ただ、2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件を振り返れば、上陸はもとより、中国が漁船衝突といった行為に及んだだけで、国内世論は沸騰すると思います。当時の日本政府の対応が国民からあれほど叩かれたことを考えれば、仮に同じことが起こったとして、それで海保が危害射撃をせずに我慢したとしても、国民はあの失敗をまた繰り返すのかと相当批判の声が上がるように思います。

不思議なことに、今回、マスコミが"危害"射撃という刺激的な言葉を使って報道しているにも関わらず、サヨクな人々からの「センソウハンターイ」などという声が聞こえてきません。

あるいは、中国の行為がもう庇いだてできないレベルにあると認識しているのかもしれないですけれども、「危害射撃」という言葉が報じられても、特に何も騒がれないというのは、ひと昔ふた昔からは隔世の感があります。

その意味では、これは穿った見方なのかもしれませんけれども、政府が海保による危害射撃が可能になることがあると説明し、それが報じられたのは、対中メッセージだけでなく、国民に対する牽制というか観測気球的な意味もあるのかもしれませんね。


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