国防権限法889条という踏絵

今日はこの話題です。
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1.安全保障上の脅威


6月30日、アメリカ連邦通信委員会(FCC)は、中国通信機器大手のファーウェイと中興通訊(ZTE)の2社を「安全保障上の脅威」と正式に認定しました。

これにより、アメリカの通信事業者は連邦政府が通信ネットワーク整備のために支給する年間83億ドル(約8950億円)の補助金を使っての、両社製品購入が不可能となりました。

今回の決定について、アメリカ連邦通信委員会(FCC)委員のジェフリー・スタークス氏は「今回の決定は、アメリカの通信ネットワークをファーウェイとZTEの製品による新たな脅威から守るために役立つだろう。だが、我々はすでに導入済みの信頼できない設備を野放しにしてはならない」との声明を出し、アメリカの通信事業者がすでに使用しているファーウェイおよびZTEの通信設備の完全な交換を求めています。

もっとも、アメリカでファーウェイとZTEの通信設備を使用しているのは、地方の小規模な通信事業者のみですから、今回の決定がファーウェイとZTEの業績に与える影響は微々たるものです。


2.輸出管理規則変更


それよりも、問題視されているのは、5月15日にアメリカ商務省(BIS)が発動した輸出管理規則の変更です。

アメリカの輸出管理規則(EAR)では、アメリカ商務省(BIS)管理の規制品目リストに掲載されたアメリカの技術・ソフトウエアを用いてアメリカ国外で製造された直接製品、またはそれらを用いて製造された製品を、懸念国に再輸出や国内移転することなどを禁じています。

アメリカ商務省は、輸出管理規則の変更で、製品が、国家安全保障や外交政策上の懸念があるとして指定した企業を列挙した「エンティティー・リスト(EL)」の対象に渡ると認知していた場合、それらの再輸出には許可が必要であるとの条項を追加しました。

これにより、例えば、半導体の受託製造を行うファウンドリがファーウェイや子会社の海思半導体(ハイシリコン)の設計に基づく製品を生産する場合、その過程でアメリカ由来の技術やソフトウェアを使用する際にはアメリカ国外での生産を含めて商務省の許可が要るようになったのですね。

この措置を受け、ファウンドリ世界最大手のTSMCはファーウェイからの新規受注を停止。ファーウェイは台湾の半導体設計大手の聯発科技(メディアテック)や中国の紫光展鋭(UNISOC)などからの調達を準備し始めているのですけれども、複数の関係者によれば、ファーウェイは海思半導体(ハイシリコン)の設計部門の縮小を検討しているとのことです。

生産拠点については、代替企業も探せばあるかもしれませんけれども、半導体回路の設計ソフトウェアはアメリカのシノプシス(Synopsys)、ケイデンス・デザイン・システムズ(Cadence Design Systems)とドイツのメンター・グラフィックス(Mentor Graphics)の3社が独占していて、その内の2社のソフトの使用にアメリカ商務省の許可がいるとなれば相当なダメージを受けることは間違いありません。


3.国防権限法889条


アメリカによる中国パージは製造だけではありません。

2018年に成立したアメリカ政府の「国防権限法」に基づき、8月13日からアメリカ政府は、ファーウェイとZTE、海能達通信(ハイテラ)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)の五社の製品を使う企業がアメリカ政府機関と取引をすることを禁ずる第二弾の制裁を発動します。

国防権限法は、アメリカの国防予算の大枠を決めるために議会が毎年通す法律なのですけれども、今回の対中制裁に関係するのは889条です。

889条には、2019年8月13日から施行される「SEC.889(a)(1)(A)」と、2020年8月13日から施行される「SEC.889(a)(1)(B)」があり、それぞれの概要は次のとおりです。
SEC.889(a)(1)(A): 米国政府機関に対し、「以下の(A)~(D)のいずれかの機器(equipment)・サービス(技術を含む)を実質的・本質的に利用している機器(equipment)、システム又はサービス」の購入・取得・利用の契約及びその延長・更新を禁止。

SEC.889(a)(1)(B): 米国政府機関に対し、「以下の(A)~(D)のいずれかの製品・サービスを実質的・本質的に利用している、機器、システム又はサービス」を利用している企業・拠点
(entity)との契約及びその延長・更新を禁止。

(A)Huawei 社若しくは ZTE 社又はこれらの子会社(subsidiary)若しくは関連会社(affiliate)が製造した通信機器。

(B)Hytera Communications Corporation, Hangzhou Hikvision Digital Technology Company, 若しくは Dahua Technology Company 又はこれらの子会社(subsidiary)若しくは関連会社(affiliate)が製造した通信機器又はビデオ監視機器。

(C)上記の(A)又は(B)が規定する企業・拠点が提供する通信サービス若しくはビデオ監視サービス、又は、上記の(A)又は(B)が規定する機器を利用している通信サービス若しくはビデオ監視サービス

(D)国防長官が、国家情報長官又は FBI 長官と協議の上、中国に所有され(own)、支配され(control)又は関係(connect)していると合理的に判断した企業・拠点により製造又は提供されている通信機器・サービス又はビデオ監視機器・サービス


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ここにきて注目されているのは、今年8月13日から施行される「SEC.889(a)(1)(B)」の方です。なぜ注目されているかというと、去年施行された「SEC.889(a)(1)(A)」が、ファーウェイ等の製品が使われている別製品はアメリカ政府機関に納入できなかったのに対し、「SEC.889(a)(1)(B)」では、ファーウェイ等の製品を使っている会社は、アメリカ政府機関とは如何なる取引もできず、また、ファーウェイ等とは全く関係ない製品であっても納入できないという厳しい措置であるからです。

要するにファーウェイやZTEの製品を社内でのみでしか使っていなかったとしても、それだけでアメリカ政府機関とは取引出来なくなるわけです。

ファーウェイやZTEなどと縁があれば、もうそれで取引不可能になる。詰まるところ、これは、米中どちらを選ぶのかの踏絵以外の何物でもありません。

この「SEC.889(a)(1)(B)」の対象となる日本企業は800社を超えていると見られていて、今後アメリカ政府機関と取引したければ、社内から一切合財のファーウェイ等該当する中国製品を排除しなければなりません。

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4.踏絵を迫られる邦人企業


「国防権限法」889条について、アメリカ産業界は準備期間が足りないとして施行の延期を求めていたのですけれども、アメリカ政府は予定通りの実施を決めました。トランプ政権の断固たる決意を感じます。

もっとも、889条では、禁止の除外よ免除についての取決めもされています。それは次の通りです。

(4)上記禁止の除外(SEC.889(a)(2))

(A)バックホール(末端のアクセス回線と中心部の基幹通信網(バックボーン回線)を繋ぐ中継回線・ネットワーク)、ローミング(携帯電話や PHS、またはインターネット接続サービス等において、事業者間の提携により、利用者が契約しているサービス事業者のサービスエリア外であっても、提携先の事業者のエリア内にあれば、元の事業者と同様のサービスを利用できること)、又は相互接続配置等の接続サービスを行っている通信プロバイダーからサービスを受ける契約は、その通信プロバイダーが ZTE、Huawei 等とそのような接続関係にあるからといって、禁止されることはない。

(B)ZTE、Huawei の機器等の禁止対象機器であっても、その機器が、対象データへのアクセス・その移転を行うことが出来ないものである場合は、禁止除外となる。


(5)禁止の免除(Waiver)

(i) 政府機関による免除:
政府機関の長に、上記の(A) ~(D)が規定するいずれかの企業・拠点から、上記禁止の例外の申請があった場合、禁止を猶予する重大な正当性があり、かつ、当該政府機関の長が、その例外申請後30日以内に、議会の担当委員会に、当該企業・拠点のサプライ・チェーンにおける、上記の(A)~(D)の製品・サービスの完全かつ詳細な説明、及び当該企業・拠点のシステムからの上記の(A)~(D)の製品・サービスの除去の計画を提出した場合は、当該政府機関の長は、1回だけ、上記(3)の禁止施行日から2年以内に限り、禁止を免除することが出来る。

(ii)国家情報長官による免除:
国家情報長官が、禁止の免除が、米国の国家安全保障のために必要であると決定した場合は、その免除をすることが出来る。
要するに、基幹通信網や相互接続しているものについては、除外され、また、該当中国製品を使っていても、社内の使用実態と排除計画を提出すれば、最長で2022年8月迄1回に限って免除されるということです。

ただ、そうして免除申請したところで、他社との競争上不利になる可能性があり「利用する企業は少ないだろう」との見方も多いようです。

米中どちらを取るのか踏絵を迫られる日本企業。間違いない選択としていただきたいですね。



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