アメリカのWHO脱退とテクノロジー・アクセス・プール

今日はこの話題です。
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1.我々はWHOとの関係を終了させる


5月29日、アメリカのトランプ大統領は、WHOについて「改革を求めたが、彼らは動くことを拒んだ。我々はWHOとの関係を終了させる」と述べ、WHOからの脱退を表明しました。

武漢ウイルスの感染が深刻化して以降、トランプ大統領はWHOを「中国寄りだ」と批判していました。4月には、拠出金を一時的に停止する方針を宣言し、5月18日にはWHOのテドロス事務局長に「30日以内に大幅な改善に取り組まなければ、加盟も見直す」と通告していました。結局30日を待たずしての脱退表明はこれ以上まっても無駄だと思わせる何かがあったのか、あるいは脱退そのものが既定路線だったのかもしれません。

ただ、実際に離脱できるかどうかについては、WHOの規約に正式な離脱メカニズムが記載されていないそうで、アメリカがWHOへの供出金を止めることは可能としても、同時に投票権も失うという見方もされているようです。

このトランプ大統領のWHO脱退宣言には批判が噴出。アメリカ医師会のパトリス・ハリス会長は「すでにアメリカ国民10万人以上の命を奪ったパンデミックの中でWHOとの関係を絶つことが論理的な目的に資することはなく、この公衆衛生危機から抜け出す方法を見いだすことを劇的に一層困難にする」と指摘。与党・共和党のアレクサンダー上院議員も「WHOの誤りの検証は必要だが、危機の最中ではなく事後にすべきだ」と苦言を呈しています。

また、欧州連合(EU)は「いまは協力と共通の解決策を強化すべき時だ……国際的な成果を弱める行動は避けなければならない」とする声明を発表しています。

更に、中国も批判。6月1日、中国外務省の趙立堅は定例会見で、アメリカが権力政治や一国主義を追求していることが明らかになり、国際社会は米国の自国第一主義的な行動に反対しているとし、「アメリカは、グループからの離脱や協定撤回の中毒になってしまっている」と述べています。



2.歓迎する台湾、慰留しない日本


一方、アメリカのWHO脱退を歓迎するところもあります。台湾です。

5月30日、台湾で武漢ウイルス対策本部を率いる陳時中・衛生福利部長は記者会見で、「アメリカが脱退し、新たに信頼できる枠組みができるなら台湾も参加したい」とコメントしました。

まぁ、長年、中国の圧力でWHO総会などに参加できずにいた台湾にしてみれば、WHOに相当する新しい国際組織が出来るのならそこに参加することで、事実上の国扱いされる実績を積める訳ですから、願ったり叶ったりでしょう。

その一方で台湾メディアは、与党幹部の「アメリカが脱退しても、日本やオーストラリアはとどまるだろう。長期的に見れば、WHOの枠組みへの参加を目指す方が台湾には有益だ」との見方を報じています。

その日本ですけれども、5月30日、西村経済再生担当相は記者会見で、「日本政府としての対応は外務、厚生労働両省を中心に検討が行われている」と述べるにとどめ、態度を明らかにしませんでした。ただ、日本政府としてはアメリカのWHO脱退は、アメリカ政府の政策判断として慰留しないとみられています。


3.Gゼロ時代に入ったWHO


今回のWHOを巡る動きについて、WHO親善大使であり、自民党新型コロナウイルス関連肺炎対策本部顧問の武見敬三参院議員は、朝日新聞のインタビューで「WHOは牽引役がいなくなり、Gゼロ時代に入った」と話しています。次にインタビューの一部を引用します。
――今回のWHAの特徴を語ってください。

WHOがGゼロ時代に入ったことを明確に示した。

過去のWHOはG7や欧米諸国の影響力が強かった。

ところが、米国がWHOへの強い批判を始めたことで、米国のリーダーとしての役割が大きく後退した。欧州各国も、米中対立から一定の距離を置こうとしたことで、明確な強いメッセージを出せずに終わった。

中国は20億ドルの拠出表明や新型コロナとの戦いに各国の協力を呼び掛けるなど、新しいリーダーとしての役割を強調した。だが、拠出の内容が不明確だし、武漢での初動対応の不透明性もあって、中国を信じ切れない国が依然多数を占めている。

どの国もWHOを牽引できなくなった現実を、今回のWHAは明確に示している。

――WHOの職員らは今回の米中の対応をどう評価しているのですか。

WHO関係者の間で著しく評価を下げたのは米国だろう。新型コロナとの戦いの最中にWHOを批判し、拠出金の引き揚げや脱退まで言及したからだ。

米国は元々、WHOと距離を置き、批判も加えてきた。ただ、それは、西アフリカでエボラ出血熱が広がった際の危機管理対応が遅かったとか、ジュネーブの本部に人材が集中して非効率な官僚主義に陥っているといった、体制や組織のあり方への不満だった。

ところが、今回は政治的中立性への批判にまで広がった。WHO関係者の本音は「米国は、もっと現実に即した批判をしてほしい。中国を不必要に孤立させても、新型コロナ問題の解決への助けにならない」というものだ。

WHO関係者は、中国を激しく非難するトランプ米大統領の対応について「今秋の米大統領選に向け、新型コロナ問題の初期対応のまずさを隠すため、中国とWHOをスケープゴートにしようとしている」と感じている。

――WHOは中国についてはどう考えているのでしょうか。

WHOは武漢で新型コロナの感染が明らかになった際、すぐに調査団を派遣できなかった。職員たちはじくじたる思いを持っていたと思う。

ただ、WHOには関係国に対する強制力がない。中国を納得させて調査に協力させるという方法しかとれない。中国の政治体制の特徴とその自立した影響力を考えれば、批判するだけでは事態は改善しない。不必要に対立せず、相手を説得するしかない。

――テドロスWHO事務局長の対応についてどう評価しますか。

WHO内には総会の前に2つの意見があった。

一つは、不必要な政治対立をあおる場面を作らず、人事と新型コロナ問題への決議程度にして簡単、かつ穏便に済ませようという意見。そしてもう一つが、大勢の世界の指導者に演説してもらい、WHOの下での団結を印象づけて、WHOの立場を強化すべきだという意見。テドロス氏は後者の考えだったと思う。

そして、実際、各国の指導者は「新型コロナ問題で協力しよう」という発言を連発していた。これはWHOのみならずテドロス氏自身の立場も強くする効果があった。テドロス氏は非常に巧みに立ち回り、自分に対する批判から逃げ切ろうとしている印象だ。
武見参院議院は、WHOは米中双方に不満を感じているとし、テドロス事務局長についても、巧みに立ち回り、自分に対する批判から逃げ切ろうとしている印象だと批判しています。

これも結局は、WHOも右往左往するばかりで、国際的指導力を発揮できなかったということなのだと思います。


4.COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール


6月1日、アメリカの脱退表明を受け、WHOのテドロス事務局長は記者会見で、「世界は長い間、アメリカ政府と国民の力強い協力から恩恵を受けてきた。引き続き共に働いていくことがWHOの願いだ」と今後も協力していきたいとの考えを明らかにしました。

けれども、それならば、アメリカが「中国寄りだ」と批判している事に対する答えと行動がなければならず、単に口だけで協力したいといったところで余り意味はないと思います。

武見参院議員の指摘するように、巧みに立ち回って自分に対する批判から逃げ切ろうとしている癖に、協力だけはしてくれ、というのは虫がよいというものです。

5月29日、WHOは「COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール」というイニシアチブを発足させました。

これは、武漢ウイルス感染症へのワクチン、検査薬、治療薬が先進国や開発企業に独占されるのではなく、国際共有財とするための取り組みで、コスタリカのカルロス・アンドレス・アルバラード・ケサーダ大統領が3月に提唱したものです。

「COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール」について、WHOのテドロス事務局長は「新型コロナウイルスを防ぎ、治療できる手立ては、国際的な公共財として誰もが利用できなければならない」と述べています。

この「COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール」は次の5項目のコミットメントで構成されています。
1)遺伝子配列・データの公表
2)全臨床試験結果の透明性の高い公表
3)製薬会社への政府支援の契約条項の中に医薬品の衡平な提供、手頃な価格設定、試験データの公表規定の導入
4)治療、検査、ワクチン等の技術ライセンスを国連の「医薬品特許プール」に付与
5)Open Covid PledgeとTechnology Access Partnership(TAP)にも加盟しオープンイノベーションと技術移転を推進
この「COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール」に参加した国は、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、ノルウェー、ポルトガル、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルー、ウルグアイ、エクアドル、パナマ、ホンジュラス、エルサルバドル、ベリーズ、インドネシア、マレーシア、東ティモール、ブータン、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン、モルディブ、オマーン、レバノン、エジプト、スーダン、南アフリカ、ジンバブエ、モザンビーク、バルバドス、セントビンセント及びグレナディーン諸島、ドミニカ共和国、パラオの37ヶ国です。

けれども、ワクチン開発でリードする企業の本社があるアメリカやイギリス、スイスが入っておらず、現段階では実効性に欠けるとみられています。


5.中国が狙うワクチン外交


更に、筆者が注目したいのは、この「COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール」にアメリカが参加していないことはもとより、中国も参加していない点です。

中国は中国で武漢ウイルスのワクチン開発を進めています。

この程、中国国務院の国有資産監督管理委員会が微信(ウィーチャット)の公式アカウントで、北京生物製品研究所と中国生物技術が共同開発したワクチン候補は、臨床試験の第2相試験を完了しており、今年末あるいは来年初めに市場に投入される可能性があると明らかにしています。

中国は武漢ウイルスを「人類共通の敵だ」とし、WHOに速やかに情報公開していると主張していますけれども、それならば、中国はテドロス事務局長の「治療できる手立ては、国際的な公共財として誰もが利用できなければならない」との発言に従い、「COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール」に参加して開発したワクチンの情報公開を行わなければなりません。

おそらくは、マスク外交よろしく、ワクチンを分けてやるから、中国の味方をしろとかなんとか外交カードにするのではないかと思います。

その意味では、テドロス事務局長は、アメリカと今後も協力関係を続けたいのではあれば、中国に対して、「COVID-19・テクノロジー・アクセス・プール」への参加させ、開発しているワクチンとやらの情報を広く開示させる必要がある。

さもなくば、テドロス事務局長は自身の下がりまくった評判を取り戻すことは出来ないのではないかと思いますね。


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