香港に介入する米英と香港民族

今日はこの話題です。
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1.香港デモ収まらず

香港デモが続いています。

9月4日、香港政府の林鄭月娥・行政長官が「逃亡犯条例」改正案の撤回を表明したのですけれども、依然、香港デモは、警察の暴力行為に対する独立調査委員会の設置など「5大要求」の実現を求める抗議活動が続いています。

9月5日のエントリー「香港デモの勝利とこれから」のコメント欄でス内パーさんから、御指摘いただきましたけれども、林鄭行政長官の「逃亡犯条例」改正案の撤回は、「正式な撤回ではなく、撤回の提案を立法会に送るだけ」で、まだ撤回が決まった訳ではないようです。

今回の条例改正案撤回について、香港では「遅すぎて、少なすぎる(too late too little)」という評価が一般的であるようです。

デモが長期化するにしたがい、デモ隊の五大要求項目が香港社会に定着、今や、他の4つも前進しなければ、事態は鎮静化しないような状況だと言われています。

残りの4つとは、抗議活動の暴動認定の取り消し、逮捕された抗議者の釈放、警察の対応を調査する独立委員会の設置、直接選挙の実現ですけれども、傘下の警察の反感を呼ぶことや、中国政府が直接選挙を認めるなど考えられないことを考えると簡単にはいきそうにありません。


2.「逃亡犯条例」改正案の撤回は林鄭行政長官のクーデターだったのか

そんな中、林鄭行政長官が「逃亡犯条例」改正案の撤回表明は事実上のクーデターではないかという指摘が上がっています。

評論家の石平氏は、林鄭行政長官が4日のテレビ演説で、撤回について「中央政府の支持と理解を得た」と言わなかったことと、また中国政府がこの件について沈黙していることから、中国政府の指示によるものなのか、それとも行政長官の独断なのかに疑義を呈しています。

石平氏は、撤回表明前日の3日、中国国務院香港・マカオ事務弁公室の報道官が記者会見で、香港デモ隊の五大要求について「それは要求でも何でない。赤裸々な『政治的恫喝』であり、『政治的脅し』だ」と完全に拒否する発言をしていたことから、それがいきなり、要求の1つである「改正案撤回」を容認するのはあり得ないとしています。

また、林鄭行政長官が、夏に。中国政府に対し、「逃亡犯条例」改正案を撤回すれば抗議デモの鎮静化につながる可能性があるとの見解を示したものの、中国政府はその提案を拒否したことが報じられたことで、林鄭行政長官は、中国側から一転して香港側の人間となり、香港の混乱拡大に対する責任から逃れるばかりか、その責任を中国政府に擦り付けることに成功したと指摘しています。

こうしたことから、石平氏は林鄭行政長官の動きは明らかに反乱であり、一種のクーデターと見ていいと述べています。

なるほど、確かに今月2日、林鄭行政長官が実業界の首脳たちとの非公開会合で「可能なら辞任したい」と発言した際にも、広東語でなく、英語で話したのは、ロイターがリークしやすくするためではないかという石平氏の指摘にも頷けるものがあります。

ともあれ、「逃亡犯条例」改正案の撤回表明によって、中国政府は自ら国際社会の矢面に立たされることとなりました。


3.香港を逃げ出す富裕層と宗主国の責任

香港は、1997年の中国返還以来、中国化が進み、政治的にも将来自由が制限される危険性が高まっていることから、海外に移住してしまえと考える香港人が急増しているのだそうです。

その流れは中産階級だけでなく、宗主国への回帰を求める富裕層も急増しているそうです。

イギリス政府は、外国人を対象にイギリス企業への投資目的に居住資格を認める「金のビザ(Tier One)」というものを発給しているのですけれども、その最低投資額は200万ポンド(約2億6400万円)です。このビザは3年4か月滞在可能で、2年間の延長も可能。さらに、その1年後には英国市民権獲得の申請権も得られるのだそうです。

イギリス政府によると、香港人の駆け込み申請が今年の4月から6月に対第1四半期比で倍増、全体の10%に及び、今後さらに増加傾向だとしています。

また、イギリスからは住民のおよそ半数を「英国人」にすべきだとの意見も提起されています。

これは、イギリス下院外交委員会のトム・トゥーゲンハット委員長が、8月13日、中国の武装警察が香港に隣接する広東省シンセンに展開し、暴徒鎮圧を目的にしたとみられる訓練を始めたことについて「『1国2制度』が『1国1.5制度』になっている」とし、イギリスが検討すべき項目を列挙した中の提案の一つです。

トゥーゲンハット委員長は「完全な市民権を香港の中国人に拡張すること。1997年にやっておくべきだったが、誤りは正すことが必要だ」とツイートしているのですけれども、香港返還までは、香港人は希望すれば「英国海外市民(British National Overseas、BNO)」のパスポートを持つことができました。

BNOはイギリス本土に永住できないなどの制約はあるものの、ビザなしで行ける国の数がイギリス本土のパスポート並みに多いなどの特徴があります。

そこで、トゥーゲンハット委員長は、いまもこのBNOパスポートを持つ人にイギリス本土の国籍を与えよう、と提案しているのですね。

トゥーゲンハット委員長は、提案の狙いとして「香港人の権利が尊重されていることを改めて確認し、現地での政治的対話を促進するのに役立つ」と述べていますけれども、ある意味、元宗主国としての責任を果たそうとしていると言えなくもありません。
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4.香港人の民族意識と北京から見た香港の位置づけ

2017年7月1日、香港返還20周年式典で習近平国家主席は「中央権力に盾突く行動は、絶対に許さない!」と豪語。中国政府の強権発動を示唆しました。

けれども、この発言にイギリスのフィナンシャル・タイムズが噛みつきました。

7月3日、フィナンシャル・タイムズは、寄稿記事で、「英国領だった香港の『返還後第一世代』の若者を中心に、中国人ではなく『香港人』としてのアイデンティティーを香港人が強く主張し始めた……その背景にあるのは、中国政府の香港人の生活様式に対する締め付けだ。明らかな強硬統制は一層の運動を先鋭化させる」と主張しました。

あれから、2年。今の香港は、フィナンシャル・タイムズの予言どおりになったといえます。

また、香港人としてのアイデンティティーについても、それを予感している人もいました。

静岡大学の楊海英教授は、香港返還直後の1997年夏に香港を訪ね、本土で使われる「普通話」で話し掛けるとあからさまな嫌悪感を示され、英語を使うと、満面の笑みだったという体験を取り上げているのですけれども、当時、中国人識者は「言葉の好き嫌いの問題は、イギリスによる植民地支配の残滓だろう」と、認識していたのに対し、楊海英教授は、一種の民族意識が根底に潜んでいるのではないか、との感覚があったと吐露しています。

楊海英教授は、2016年に、香港の知識人である徐承恩の名著『香港──躁鬱な都市国家』の依頼を受けたのですけれども、その書籍では「香港民族は、紀元前から東アジアの南部に暮らしていた「百越」の後裔で、近世の大航海時代に突入してからポルトガル人やイギリス人、漢人難民との混血で融合して形成されたものだ」と主張。「漢族の一集団ではなく独自の民族である以上、民族自決権を行使し都市国家を建立すべきだ」と宣言していたことを念頭に、今回の香港デモは、その民族主義が成熟し、マグマのように爆発していると指摘しています。

一方、北京政府はそんな香港をどう見ているのか。

静岡大学の楊海英教授によると、香港デモが始まった初期の段階に人民解放軍のある将校が「香港は実は台湾よりもたちが悪い」と批判しているのだそうです。

その将校によると、台湾には、中国共産党の善し悪しが分からない「善良な人」が多く、「中国を正しく理解している」のに対し、香港は漢族ではなく「野蛮人の百越の子孫」であり、そこに、筋金入りの「反共分子」が加わって、さらに「英国帝国主義の悪しき教育を受けた」ために、香港が離反しているのだ、としているそうで、楊海英教授は北京政府は香港をそのように認識している節があると述べています。

けれども、中国政府は、そんな香港を窓口にして西側の情報を収集するだけでなく、金融センターとして先端技術と豊富な資金を本土に吸い上げてきました。

楊海英教授は、中国共産党政府の高官たちはほぼ例外なく香港に不正蓄財を隠し持っていることから、香港を切り捨てることは出来ないだろうと述べています。


5.香港人権法案によって香港は監視される

今回の「条例撤回」について、行政長官のクーデター説がある一方、アメリカの揺さぶりであるという見解もあります。

6月13日、アメリカ下院の超党派議員が『香港人権・民主主義法案』を提出しました。

これは、アメリカが一国二制度の香港に対して、関税やビザ発給などで中国本土とは違う優遇措置をしているのですけれども、この優遇措置の継続に関して、香港における民主主義や人権が十分に確立しているかどうかを再確認するという法案です。

法案には、アメリカが香港に付与した特別待遇を濫用・悪用していないか、これを監督し、牽制する機能が盛り込まれ、罰則も用意されています。

香港の自治権の毀損が認められた場合、アメリカは香港に与えてきた特別待遇を打ち切ることができるようになるばかりか、香港の人権や民主・自治を侵害した者に対して、アメリカにおける資産を凍結したり、アメリカ入国を拒否したり制裁することも可能になります。

「香港人権法案」が可決されると、アメリカの国務長官は香港が「中英連合声明」や「基本法」、「国際人権規約」等に基づき、人権や自由ないし自治をきちんと保障しているかどうか、人権侵害で制裁対象となる人物がいるかどうかを検証し、毎年レポートにまとめてアメリカ議会に提出しなければならなくなります。香港に対し"継続的"に監視することが義務付けることが出来るようになる訳です。

今回の条例撤回について、一部では、中国政府が一度退いたように見せ、頃合いを見て、また条例を持ち出してくる「政治的罠」だという噂も囁かれているようですけれども、「香港人権法案」が可決されるとそういった「死んだフリ」も出来なくなる訳です。

中国政府は、「香港人権法案」を内政干渉だと抗議していたのですけれども、この法案が、アメリカ議会が夏季休暇から明ける9月7日以降に本格的に審議される見通しだったため、その前に、中国政府は撤回を指示したのではないかというのですね。

ただ、今のところ、アメリカ議会は特に、「香港人権法案」審議を止めるという動きはしていないようです。その意味では、条例撤回と「香港人権法案」がバーターになっているのかはまだ分かりません。

それに、この法案は民主党のナンシー・ペロシ下院議長の支持も得られた超党派議員による共同提出法案です。

いわば、共和・民主の与野党合意事項としても注目されている法案でもあり、仮にトランプ大統領が来年の大統領選挙で敗北し、民主党の誰かが新大統領になったとしても、この「香港人権法」だけは継承されると見られています。

こうして見てくると、香港人としての民族意識が首をもたげつつある香港は、従来の金融センターとしての地位が揺さぶられる中、イギリスとアメリカがそれぞれ国籍と人権で介入の構えを見せるという複雑な渦中にあるといえます。

その意味では、香港は世界の目によって結構雁字搦めになっているともいえ、仮に、習近平政権が香港を切り捨てるにしても、相当の出血を覚悟しないとならないようにも思えます。

中国政府は、広東・香港・マカオを一体化したグレートベイエリア構想の中心地にしよう、という構想を打ち出し、香港の役割はシンセンに受け持たせようとしているのではないかという見方もあるようですけれども、米英が香港に干渉を始める中、中国政府が完全に香港を切り捨てる腹積もりでいるのか。

そこが大きなポイントになるのではないかと思いますね。

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