逆転敗訴したWTO報告書と法廷戦術

 
今日はこの話題です。

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4月11日、WTOの紛争を処理する上級委員会は、韓国が、東京電力福島第1原発事故後、放射性物質の流出を理由に、福島県をはじめとした8つの県産水産物の輸入禁止措置を妥当だとする判定報告書をWTO全加盟国に回覧し公開しました。

日本の逆転敗訴です。

これは、2011年3月の福島原発問題で、世界54ヶ国および地域が、福島県産食品などに輸入禁止措置を取ったことに端を発します。その後、各国は規制を緩和していったのですけれども、当時の朴槿恵政権は、逆に2013年に規制を強化。福島、青森、岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の8県産のすべての食品や水産物を規制の対象としたのですね。

日本政府はこれを不当とし、2015年5月21日、韓国の追加措置が、「衛生植物検疫措置の適用に関するWTOの協定(SPS協定)」に反するとして、次の3点について、韓国との紛争解決手続に基づく協議をWTOに要請しました。
a)特定の食品に対する輸入禁止。
b)特定の放射性核種の存在に関する追加の試験および認証要件。
c)SPS協定に基づく透明性義務に関する多数の記載漏れ。
2016年9月に二審制の下級委員会にあたるパネルが設置され、2018年2月、韓国の輸入規制措置について「必要以上に貿易制限的で不当な差別である」として、SPS協定に反すると判定。SPS協定に適合させるよう韓国に勧告する報告書を出しました。

ところが、これを不服とする韓国は2016年4月に上級委員会へ申立てを行い、今回12日にWTOの上級委員会は、一審パネル判定で日本の主張を認めた争点で、透明性の中の公表義務を除く全ての争点で一審パネル判定を破棄し、韓国の主張を認める報告書を出したという訳です。

今回の発表はWTOとしての「最終判定」になるため、30日以内にWTOの全加盟国会合で示されて採択、確定することになりました。

今回の報告書はこちらに公開されていますけれども、上級委員会が問題視したのは日本が勝訴した一審でのパネルの手続きです。

一審でパネルは韓国の「適切な衛生健康保護水準:ALOP」を受け入れ、「年間の許容内部被曝放射線量(1mSv/年)」、「対象となる魚の生息海域」、「達成可能なより低い被曝水準の設定」という3つの要素を考慮すべきところを、その分析が「1mSv/年の年間許容内部被曝放射線量」だけで判断したというのですね。
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今回の上級委員会の判定にあたって、韓国政府は、一審を覆すべく理論武装とロビー活動を進めていました。

本提訴に対し、韓国は、貿易の不当性より国民の安全性を強調。「現実の数値のみならず、土壌など周辺環境も含め将来にわたって改善すべきだ」と主張しました。

そしてこれは、2008年に牛海綿状脳症(BSE)を理由とした米国産牛肉輸入制限解除の際に、大規模な抗議集会や街頭デモが実施されるなど、食の安全に敏感な国民感情への配慮だとし、自国の主張の妥当性をアピールするため、汚染水処理や廃炉など原発の事故処理が続くことも訴えていました。

また、韓国はロビー活動も執拗でした。

昨年末からジュネーブのホテルにウォールームをかまえて3週間、20人余りがほとんど一日中対応し、WTO控訴委員3人に詰め寄り続けたそうです。

今回のWTO最終審に当たって、勝訴を勝ち取った、チョン・ハヌル産業部通商紛争対応課長は、アメリカ通商専門弁護士出身で、昨年4月、特別採用された人物です。彼は「世界で最も権威ある控訴機構の一つであるWTO控訴委員3人を説得するために、それだけ私たちが激しく対応して良い結果が出てうれしい」と述べていることからその執拗さが伺えます。

今回のWTOの上級委員会の判決は、日本産食品の安全性を認めた一審の判断を変えていません。けれども、韓国の主張を認めた。

先のチョン課長は、今回の判決について、日本食品自体の有害性だけを根拠に判決を下した点が不当だ、という点を強調するのに力を集中すると共に福島原発事故後の環境が日本食品に及ぼす潜在的危険性を検疫過程で除去することが韓国政府の正当な権利であることを強調したのが功を奏した、と述べています。

何にせよ、韓国は科学的根拠を脇において、国民感情を表に出す法廷戦術を駆使することで勝利した訳です。

筆者は「韓国の宣伝戦と日本の言論戦の違いに留意せよ」のエントリーで、韓国は、他人を「感情」で納得させようとし、日本は他人を「理性」で説得しようとするが、日本はこの違いをもっと認識しないといけないと述べましたけれども、今回もまんまと「感情」で執拗に主張するやり方にやられた訳です。

今回の判決に韓国はお祭り騒ぎ。韓国の『CBSノーカットニュース』は、「朴槿恵政権の『疑問の1敗』に痛快な復讐・・・『WTO2審 神の一手』」というタイトルで熱狂的に報じました。

この熱狂ついて、在ソウルのジャーナリスト・朴英南氏は「韓国国民が期待を寄せていた文在寅大統領とトランプ大統領の韓米首脳会談は、北朝鮮問題を巡って、まったくの物別れに終わりました。それだけに文在寅政権は、国民の批判の目をそらそうと、躍起になって『判決』を宣伝しているんです」と指摘。

更に、「折からの経済悪化によって、週末のソウルといえども、いつもは暗い雰囲気なんですが、12日の晩はレストランも飲み屋も、『対日勝利の乾杯』に沸いていました。韓国で誰よりもホッとしたのが、文在寅大統領だったと思います。重ねて言いますが、WTOの『判決』とほぼ同時刻に、ホワイトハウスで行われていたトランプ大統領との韓米首脳会談は散々で、文大統領が帰国後、国会で糾弾されるのは目に見えていました。それがこの思わぬ『対日勝利』によって、『文大統領はワシントンでは失敗したけど、まあ許してやるか』という感じになっているのです」とコメントしています。

朴氏の指摘の通りであれば、文在寅大統領の支持率は少しは回復するのかもしれませんけれども、それで数々の失政がなくなる訳ではありません。戦略的失敗は一つの戦術的勝利で覆る訳ではないのですね。

けれども、日本としては、今回の科学的根拠が国民感情でひっくり返されたという事実については、しっかりと受け止め、対策を講じる必要があります。

なぜなら、元徴用工賠償判決を巡る問題が控えているからです。

4月15日、文在寅大統領は首席秘書官・補佐官会議で、今回の判決を受けて「緻密に準備すれば貿易紛争で勝つことができるという自信を持ってほしい」と述べたそうですけれども、元徴用工判決問題で国際司法裁判所に訴えても、韓国はまたぞろ同じく、国民感情を全面に出す法廷戦術を取ってくる可能性があります。

日本政府も事実を元にした言論戦だけでなく、ロビー活動および情感も合わせた宣伝戦にももっと力を注ぐべきだと思いますね。
 

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